「俺のせいで、命を投げ出す真似をするなんて……」
本当に似なくて良い所がそっくりだ。
まだ眠っているロイの頬を人差し指で突きながら、エドワードはため息をついた。
「おまけに……わがままに拍車がかかっている」
大佐も一度自分で決めたら決してその考えを曲げようとしない信念の持ち主だったが、ロイはそれに輪を掛けたような性格になっている。
少しでも目を離すと何をしでかすか分からない。はらはらしどおりで、安心して見ていられない。
「お前……俺がいないと駄目なのか?」
そう問いかけてもロイはすやすやと赤ん坊みたいに寝ているだけで、起きる兆しもなかった。エドワードは少しだけ頭に来て、軽く揺さぶってみたが、それでも起きなかった。
「むかつく」
こんなにエドワードが心配しているのに。勿論怪我をしているが、それも命に関わるような怪我でもない。以前自殺未遂をしたときの傷のほうが重症だったくらいだ。
息を止めたら起きるかも。そう思ったエドワードは即座に実行した。
「んっ、な、何?」
「何じゃないだろ!この馬鹿!」
「どうせ起こすのだったら、キスしてくれれば良いのに」
エドワードが手のひらでロイの息を止めていたのに気がついたロイは、そんな文句を言いながら覚醒した。
「馬鹿が!死のうとしたやつにそんなサービスがあるわけないだろう!」
「死のうとなんかしてないよ…ただ、エドを守りたかっただけだ。必死で追いかけたんだよ?……変な薬飲ませるから、身体上手く動かなかったし。でも……あの時もし、俺、死んでしまうんだったら……大佐に勝ちたかった。ただ、それだけ」
だって俺一人だけ死んで、エドを置いてなんかいけないよ。誰に取れるか分からないから、安心して死んでいられない。そんなふうに愚痴って、ロイは顔を寄せた。
「それだけって……」
あんなに胸が痛んで死んでしまいそうなほど苦しかったのに、余りにも簡単にそう告げるロイに、怒りさえ湧き上がってくる。
「俺のせいで、大佐は全てを失ったんだ」
また同じようにこのロイまで失ってしまうのかと思った、エドワードの苦しみをロイは分かっているのだろうか。
「違うよ!同じ俺が言うよ!……大佐はエドのために、確かに全てを失ったかもしれない。でも、こうして今はもう俺の腕の中にエドはいてくれる。何も失っていないよ」
「失った!……お前は違う!……あの人が持っていた野心も、持っていた地位も……俺への想いも……全部、全部、失ったっ!……忘れてしまったくせに!……」
全部違う。違うくせに、エドワードを見る目だけは一緒だった。それだけは変わらない。
「愛しているって大佐は何度言ったの?」
「一度だけ……たった一夜」
一度しか許されなかった。それだけしか時間が許さなかった。あの夜、たった一度。いなくまってしまったのだから、二度目はなかった。
「俺は何度でも言うよ…エドワード、愛している。愛してる、愛してる、愛している」
「ロイ……」
「ちゃんとそう言えるのを、きっと大佐も喜んでいる」
ロイはエドワードの手を取ると、そっとその胸にあてた。
「野心も、エドへの想いも、ちゃんと残ってる。だってそうだろう?……悔しいけどさ…、どうしてこんなに俺にはエドしかいないんだろうって思うのは、認めたくないけど…きっと大佐の一番がエドだったからだと思うんだ。だから……俺はエドしか愛せないし、愛したくないんだ」
まるで不変の真理かのように、そう言った。エドワードも同じだった。大佐しか愛せない、愛してはいけないと思ってきた。ずっと。
「それに大佐は、大総統だっけ、それ目指していたって?俺も目指そうと思う」
「ロイ?!」
「大総統はエドを考えていたらしいけど、俺でも良いって。だからその代わりに、俺に全く別の戸籍を用意してくれたんだ。俺、大総統になるよ。国家錬金術師になると決めたとき、そう決めたんだ。エドがやりたくもない大総統なんかさせないって。俺が大佐よりもずっと立派な大総統になってみせる。だから、エド……俺、大佐の代わりは無理かもしれない。ううん……代わりにはなりたくない」
切なそうな顔で代わりにはなりたくないというロイに、エドワードも切なくなった。ずっと分かっていた。ロイが大佐の代わりではなく、ただの男として愛されたかったことを。
「俺、大佐って男を知らない。エドが愛した男をどうしたら超えられるかも分からない。でも、これだけは誇れる……俺は大佐と同じくらい、ううん、それ以上に愛してるよ。だから逃げないで。俺にしておいてよ」
「お前……馬鹿だよ…。俺のせいで、一生を駄目にしたのに、まだそんなこと言ってる」
こんなにもこの胸には後悔も、やるせなさもあるのに、ロイはまるでそんなことは関係ないかのような口調だ。ただエドワードを愛することしかしない。もうエドワードができないことだ。いや違う。エドワードがはじめからできなかったことだ。だってエドワードは愛するにも、愛することが許されなかった。ロイもエドワードもだ。
だけど、このロイは違う。真っ直ぐにただ愛を貫こうとする。過去と同じように結ばれることに障害があっても、切り抜こうとしていた。
「アルフォンスは、自分がエドの歳を盗んだって言っているけど、俺は違うと思うんだ」
怪我をして包帯だらけの腕で、それでもエドワードを抱きしめて離そうとしなかった。一度エドワードがロイを置いて逃げ出そうとしたから、逃がさないように抱きしめて離そうとしないのかもしれない。その温かい体温でロイが生きているのだと実感できた。
大佐のように消えてなくなったりはしない。ちゃんと今ここにいて、存在している。
「ずっと、俺を待っていてくれたんじゃないか?昔のままで……俺がエドに追いつくのを待っていてくれたんだ」
「お前……前向き過ぎる」
泣きたくなるくらい、ロイの思考はハッピーエンド主義だ。ご都合主義過ぎる。エドワードには絶対真似出来ない。
「俺は……俺よりしぶとく長生きして、死んでも死ななさそうな奴にしか、俺はやれない!……俺を死んでも離さない奴にしか」
なあ、もう良いかな?大佐。俺は大佐しか愛したくなかった。大佐しか俺にはいなかった。そう思っていた。
でも俺が必要だっていう我が侭な子どもがいるんだ。俺がいなくなったら生きていけないかもしれない。育て方を失敗した、でも誰より愛おしい子なんだ。
何度も諦めさせようとしたし、逃げようともした。ロイは大佐とは違うって。俺はもう大佐以外愛してはいけないんだって。
俺になんか関わらせないほうが良かったのに、でも俺はロイがいなくては生きてこれなかった。ロイは俺がいないと生きていけないって言うけれど、本当は俺が駄目なんだ。ロイがいないと生きていけない。
ずっとアンタだけを愛していないといけないと思っていた。ずっと自分に言い訳して、ロイを愛していないといい続けてきた。それが俺の贖罪だと思ってきた。
だからロイを息子以上に愛することなど、決してしてはいけないことだと思ってきた。
ロイは大佐とは違う。その愛し方も、不器用さも。それでも、その面影は大佐そのもので。幼さゆえの真っ直ぐさも、あの頃の大佐に良く似ていて。
いけないって分かっているんだ。でもそれでもその直向さに惹かれる自分をどう律したら良かったんだろうか。ロイの強引さに、強い眼差しの黒い瞳に、俺しかいらないと抱きしめる腕に、どうあがらえるのだろうか。
俺しか抱いたことのないその身体で、全身全霊で愛を囁かれ、もうこれ以上ロイを拒絶することができない。
その度に、大佐、アンタの顔を思い浮かべてみた。俺のために全てを捧げてくれた、大佐を思った。
だけど、もう良いかな。
俺がアンタ以外を愛することを、許してくれるかな?
「言われなくても絶対に離したりなんかしない……絶対にエドを残して死んだりしないから」
「死ぬなよ!今度こそ!……今度こそ、俺の前からいなくなったら許さないっ!」
ここに俺がいないと生きていけない、死んでも離さないと言っている奴がいるんだ。
大佐、アンタがいなくなってもう誰も愛せないと思った。そうずっと呪縛のように感じながら生きてきた。
でも、大佐アンタは俺にそんな生き方はさせたくなかった? ロイの言う通り、こうやって俺に愛していると言える事を、俺と一緒にいられることを、喜んでくれているのかな。
分かることは、そう、アンタは俺の不幸を決して望んだりはしないということだけ。
「俺、軍を辞めたから、お前が生活費稼げよ……俺の退職金は全部ウィンリーたちにやるつもりだから」
「まだエドに比べたら安月給だけど、俺とエドが食べていくぐらい稼いで見せるよ!」
エドワードの言葉に、もう逃げることを止めたことを悟ったのだろうロイは満面の笑みだった。
「残念……お前と俺だけじゃないんだ」
こう言えば、喜んでくれるかな。ロイも。そして大佐も。
「ずっと愛していたよ……ロイ」
終了です。ロイ視点の番外編なんかも考えたが、素直にこれで終わりです。これほどラストが書けなかったのは・・初めてでした。いつもラストから書くからですね。『ENDLESS PAIN』エドは大佐を失った痛みをずっと抱えながら、ロイと生きて行きます。元々この話はロイがいないと生きていけないくせに、色々言い訳し、嘘を貫き通そうとするエドたんのグルグル話しでした。はい・・・一応ハッピーエンドです。ゴミ箱で眠っていた奴なので、変なラストでも許してください。何かコメント残していただけると喜びます♪